specimen(s)

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EUKARYOTE


Information

EUKARYOTEでは9月6日(金)より9月29日(日)までの会期にて、昨年に引き続き二回目となるアートコレクターとの共同企画展「Specimen(s)」を開催いたします。
今回はアートコレクター・dilettante_k氏をはじめ、欧陽子璇(オウヨウ・シセン)、品川はるな、 高橋大輔、手嶋勇気、4名のアーティストにご協力頂き第二弾開催のはこびとなりました。


SNS上で様ざまなコンテンツをやり取りするように、財やサービスの取引きもいずれシェアリングにシフトすると言う。
とすれば、何であれコレクターとは、古臭い所有概念にこだわる時代遅れの人間ということになる のだろうか。
コレクションを観客にシェアするこの機会に、所有すること、それがアートであることについて考えを巡らせてみたい。

本展では上記のテキストを寄せて頂いたアートコレクター・dilettante_k氏の協力のもと、1階ではその幅広い関心を示すコレクションの一部を展示公開し、2〜3階ではコレクションからセレクトした作家による作品を展示いたします。
2階では、品川はるなが個展形式で大型の新作を発表するとともに、3階では彫刻を中心にした欧陽子璇(オウヨウ・シセン)、高橋大輔の未発表のドローイング、手嶋勇気の新作の展示など、4名の新作や近作をあわせて発表いたします。

dilettante_k氏は本展のタイトルである「Specimen(s)」について、まず「標本」であるとともに、​特定の傾向を備えた「人」を意味しており、また、「観客(spectator)」や「見世物(spectacle)」といった言葉と同様に「よく見ること(spec-)」を語源に持つとして、視覚に関係する多義的な意味合いを込めたと話します。
そのコレクションは、現代アートの領域では抽象表現を軸に絵画/彫刻といったメディアを問わない作品から、アフリカの精霊信仰に纏わるオブジェ、各国のいわゆる「民藝」にいたるまで、まさに興味や精神的・知的探求のサンプルを蒐集するように展開されています。
本展1階は通例のギャラリー展示と異なり、コレクターの手に渡りフレームに入った絵画であったり、所有者の日常を垣間見れる空間の仕掛けを散りばめました。
アートコレクター自らが高次的に観察される対象となり、アートを取り巻き構成するプレイヤーの一人:コレクターの生態にスポットを当てる今回の試みをご覧いただき、その日常生活における知的冒険の喜びを感じ取っていただけましたら幸いです。

休廊日

月曜日

オープニングレセプション

2019.9.7(土)18:00 – 20:00

イベント
デザイン

西頭慶恭

協力

dilettante_k

ANOMALY

HARMAS GALLERY


dilettante_k

蒐集家。エクレティシズム、アナクロニズムをキーワードに、現代アートから古道具、古写真まで幅広く対象とする。現代アートは同世代の日本人作家による抽象作品を中心に、ここ数年、蒐集に力を入れる。最近は、広くアジアの作家に興味を持ち始めるとともに、所蔵品のジェンダーバランスなどにも気を配る。
大コレクター・ヴォーゲル夫妻にならい、“自分が気に入り、手が届く値段で、自宅に収まる作品を買うこと”を目安に、飼い猫の妨害にめげることなく、コレクションを拡大している。1979年生まれ。


欧陽子璇|OUYANG ZIXUAN

1992 中国、青島生まれ
2014 華中師範大学卒業
江漢大学 卒業
2018 女子美術大学大学院デザイン・工芸学科ヴィジュアルデザイン専攻 卒業

主なグループ展
2018
「CAF賞2018入選作品展覧会」ヒルサイドフォーラム, 東京
2016
「アジアの華展」art gallery, on the wind, 神奈川
2011
「第2回 東+西国際大学生ポスタービエンナーレ」武漢、中国

主な受賞
2018
「CAF賞2018」入選
2013
「中国大学生広告祭アカデミー賞」功労賞
2012
「THE ONE SHOW」功労賞
「アニマルズアジア財団ポスタービエンナーレ」功労賞
2011
「第2回東+西国際大学生ポスタービエンナーレ」功労賞


品川はるな|Haruna Shinagawa

1995 東京都生まれ
2017 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻 卒業

主なグループ展
2019
「HELLO my name is _____」EUKARYOTE, 東京
2018
「家とアトリエ」KWorks ,東京
「Beginner’s luck」mime, 東京
「10 COLORS #2」清野美術教室, 東京
「PREVIEW」EUKARYOTE, 東京
2017
青春画廊西陣オープン記念展「open house」青春画廊西陣, 京都
「Transient Color」児玉画廊, 東京
「アートアワードトーキョー丸の内2017」行幸地下ギャラリー , 東京
「Les Fleurs Animėe」GALLERY LARA TOKYO, 東京
「points of departures」ARENA1, ロサンゼルス
「あふれる色彩no.3」ゆう画廊, 東京
「美大生展2017」SEZON ART GALLERY, 東京 「平成28年度第40回東京五美術大学連合卒業・修了制作展」国立新美術館, 東京
「群馬青年ビエンナーレ2017」群馬県立近代美術館, 群馬
「ZOKEI展」東京造形大学, 東京
2016
「UNKNOWNS2016」ギャラリー現, 東京
「山をぬけて」634展示室, 東京

主な受賞
2017
「ZOKEI展」ZOKEI賞
「群馬青年ビエンナーレ2017」入選


高橋大輔|Daisuke Takahashi

1980 埼玉生まれ
2005 東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻 卒業

主な個展
2018
「自画像」Art Center Ongoing, 東京
「眠る絵画」URANO, 東京
2015
「ア」HARMAS GALLERY, 東京
2014
「アメシヤボ みたいものがある」HARMAS GALLERY, 東京
2013
「絵の絵の絵の絵」HARMAS GALLERY, 東京
2012
「まぶしい絵具/五年間を振り返る」HARMAS GALLERY, 東京
「絵画の田舎」HARMAS GALLERY, 東京
2011
「高橋大輔 個展」LOOP HOLE, 東京
「高橋大輔 個展」リマスタ, 東京
「100 層」switch point, 東京
2009
「無題[無題との戦い、観念と開放・踊り(ダンス)]」T&S GALLERY, 東京
2007
「第三の石」LOOP HOLE, 東京
2006
「many」トキ・アートスペース, 東京
2005
「象風景」switch point, 東京
2004
「山と穴と母と光と死の風景」東京造形大学絵画棟展示室node, 東京
2003
「elephant♯1〜♯3」東京造形大学絵画棟展示室node, 東京

主なグループ展
2018
「C高橋コレクション 顔と抽象-清春白樺美術館コレクションととも に-」 光の美術館 清春芸術村, 山梨
2017
「Group Show VIII」cashi, 東京
「Gallery Show」HARMAS GALLERY, 東京
2016
「ZOKEI NEXT50 東京造形大学の教育成果展」アーツ千代田3331, 東京
「ハイブリッド映像論」シネマ前橋, 群馬
「NEW VISION SAITAMA5 迫り出す身体」埼玉県立近代美術館, 埼玉
「X会とパープルーム」もりたか屋, 福島
「Ongoing祭り/アートフェアオンゴーイング」Art Center Ongoing, 東京
「GALLERY SHOW」HARMAS GALLERY, 東京
「花 ドルチェ 問い/」ギャラリーマルヒ, 東京
2015
「KAREN‘S COOKIES」ギャラリーかれん, 神奈川
「ペインティングの現在 -4人の平面作品から-」川越市立美術館, 埼玉
「ループホール10周年記念展 -The first decade of LOOP HOLE-」府中市立府中グリーンプラザ分館ギャラリー, LOOP HOLE, 東京
2014
「Unknown History シリーズNo.4 記録集発売記念展示-After History- 」NADiff a/p/a/r/t, 東京
「絵画の在りか」東京オペラシティアートギャラリー, 東京
「夏と画家」ARATANIURANO, 東京
「Dynamics of expression」HARMAS GALLERY, 東京
「I’m hungry」STEAK HOUSE DOSKOI presents In the Kitchen of XYZcollective, 東京
「北加賀屋クロッシング2013 MOBILIS IN MOBILI -交錯する現在- 金沢巡回展」問屋まちスタジオ, 金沢
「VOCA展2014現代美術の展望-新しい平面の作家たち」上野の森美術館, 東京
2013
「ダイチューショー」府中市美術館市民ギャラリー, 東京
「北加賀屋クロッシング2013 MOBILIS IN MOBILI -交錯する現在-」コーポ北加賀屋, 大阪 / GALLERY MoMo Projects, 東京
「未来の体温 after AZUMAYA」ARATANIURANO, 山本現代, 東京
「UNKNOWN HISTORY」早稲田スコットホールギャラリー, 東京
2012
「ショコラデ府中」LOOP HOLE, 東京
「consonances」Time & Style Midtown, 東京「人間」シャトー2F, 東京
「GALLERIST MEETING × SOMEWHERE『非日常のライフスタイル』」ヒカリエ, 東京
「460人展」名古屋市民ギャラリー矢田, 愛知
2011
「今年かいた絵」ギャラリーかれん, 神奈川
「SHIFT←311/3.11 以降の7人の現代アート」ART CAFÉ, 広島
「人魚とビスケット」Art Center Ongoing, 東京
2009
「絵をかく人々のチャリティ展2009」ギャラリーかれん, 神奈川
2008
「ART IN TIME AND STYLE MIDTOWN VOL.4」Time & Style Midtown, 東京
2007
「COLLECTION」LOOP HOLE, 東京
2006
「絵をかく人々のチャリティ展 2006」ギャラリーかれん, 神奈川
2005
「五美大展」東京都美術館, 東京
2004
「ZOKEI展」東京造形大学, 東京
2003
「six senses」東京造形大学, 東京

ワークショップ
2015
「いろいろな色と色色なかたち」川越市立美術館, 埼玉
2012
「色とりどりの自画像」宮本三郎記念美術館, 東京

コレクション
高橋コレクション


手嶋勇気|Yuki Tejima

1989 北海道生まれ
2014 広島市立大学大学院芸術学研究科 博士前期課程 修了
2016 広島市立大学大学院芸術学研究科 博士後期課程 単位取得退学

主な個展
2018
「Landscape and sky」7T Gallery, 韓国, 大邱
「Stay in Basel」schaukasten4051 & Ausstellungstraum, バーゼル, スイス
2017
「THE GREAT MOTHER」Art Gallery Node, 広島
2016
「album」Art Gallery Node, 広島
「Life Drawing」ANCHORET, 広島

主なグループ展
2019
「VOCA展2019 現代美術の展望─新しい平面の作家たち」上野の森美術館、東京
2018
「原民喜 -かすかにうずく星-」ギャラリー交差611、広島
「Media, Human, Landscape」大邱アートファクトリー, 韓国, 大邱
『青原恒沙子 手嶋勇気「☁と/と○」』広島芸術センター, 広島
「ART SAT K-Project 写真と絵画の目指す地平」ギャラリー交差611, 広島
2016
「STUDIO PINK HOUSE」ART GALLERY miyauchi, 広島


シェア時代のコレクター

蒐集家にとっては、所有こそ、そもそも事物に対して持ちうる最も深い関係である
―ヴァルター・ベンヤミン

 ICTの進展により、空間から移動手段、モノ、スキル、お金に至るまで、世界的にあらゆる分野でシェアリングエコノミーの時代が到来したとされる。わが国でも少子高齢化に伴う需要の縮小傾向を背景に、消費形態の変化が加速していると言う。例えば、各種の財やサービスの取引きに、初期導入や維持コストを要しない、いわゆるサブスクリプション方式の利用が盛んである。要は、「所有」の時代から「共有・利用」の時代へ、というわけだ。
 文化芸術分野を見ると、すでにミュージアムをはじめ、堅牢なシェアリングシステムが存在する。観客はいくばくかの観覧料を支払えば、美術史に登場する「あの作品」にも気軽にアクセスできる。しかし、こと現代アートの世界では、未だ所有が幅を利かせているようだ。2019年5月に、ジェフ・クーンズ《ラビット》(1986)が約100億円で競り落とされ、存命作家のオークションレコードを更新する記録を打ち立てた。また、メガコレクターと呼ばれる一部の超富裕層は競って現代アートを買い込み、残念ながらミュージアムは彼らの後塵を拝している。メガコレクターが現代アートを投機とみなして転売を目論むにせよ、いずれミュージアムへの寄贈など社会貢献を望むにせよ、今や現代アートコレクションは、我われの生活から遊離し、所有者の富を言祝ぐ後期資本主義様式のトロフィーと見分けがつかなくなった。
 一方で、富裕と言えなくても、コレクションに熱をあげる人びとがいる。私もそのひとりに数えられるかもしれない一群のコレクターの動機は何だろうか。生活を横目に支払いを気にしつつ、それでも作品を目の前にすると、否応なしの興奮で購入を申し込んでしまうその動機である。
 ごく私的かつ直感的に言えば、何も大それたことではく、それは日常生活に則した喜びや愛情に類する経験である。アンリ・マティスが言う「肘かけ椅子」、あるいは柳宗悦らが展開した民藝運動における「用の美」よろしく、ハレの特権的な瞬間よりも、ケの暮らしをともにすることで、平生の賦活と慰撫につながる感動的な経験を不断に享受している。
 翻って所有とは、これらの経験の必須条件なのだろうか。並みのミュージアムでは超富裕層に太刀打ちできないなか、現代アートにまつわる経験を幅広い層がシェアできる新たな仕組みは考えうるか。例えば、ベンヤミンが指摘するとおり、所有に基礎づけられているにせよ、個人コレクションを積極的に開示=展示することも経験のシェアのひとつの形かもしれない。
シェアの時代にあって、何であれコレクターとは、古臭い所有概念にこだわる時代遅れの人間ということになるのだろうか。個人コレクションをシェアするこの機会に、所有すること、それがアートであることについて考えを巡らせてみたい。

 本展では、私に日々の感動をもたらしてくれるささやかなコレクションから、欧陽子璇(オウヨウ・シセン)、品川はるな、高橋大輔、手嶋勇気ら男女4人の作家に参加をお願いした。

 欧陽子璇(b.1992)の作品とは2018年に代官山で開催されたCAF賞2018の入選作品展で出会った。木材やプラスチック、金属などの断片を寄せ集めた無数のアセンブリッジを床面に散りばめた《石》と題するインスタレーションを出品しており、本展でもその一部を展示している。廃材を用いた作品は、一見して20世紀初頭のダダの作家たちを彷彿とさせるが、欧陽の作品はむしろ、1970年代に、わが国で「もの派」が目指した物体と環境のシームレスな関係性、あるいは、彼女の母国である中国の老荘思想における「無為自然」といった生命観を思い起こさせる気取りのなさが魅力である。本来は路傍の石ころであるところ、コレクターの傲慢でレリーフ状に整然と設えたが、かえって作品の多様性を強調することになった。

 品川はるな(b.1995)は、2017年に国立新美術館で開催された五美大展で目にした直後、EUKARYOTEの前身であるSEZON ART GALLERYから作品を案内された。アクリル特有の滑らかなテクスチャーとモノクロームの画面はシンプルで分かりやすい。しかし、《peel off the paint》のシリーズ名で明らかなように、「絵画の皮剥ぎ」を試みる暴力性を秘めている。剥がれた皮膚=絵具の下には無防備な肉であるカンヴァスが露出し、観客に痛ましさに似た感情を起こさせる。17世紀オランダで流行した、カーテンのひだを精緻に描いた「だまし絵」が、絵画は絵画であるところの自己言及を始めたとすれば、品川はさらにそれを推し進め、ひだ=皮膚の捲れそのものを見せつけることで、絵画が絵具と支持体の物理的な構成物に過ぎないことを暴露しているのかもしれない。

 当コレクションのコア作家と言うべき高橋大輔(b.1980)は、清澄白河のHARMAS GALLERYで開催された2014年の個展がきっかけだった。考えるよりも肉体的な動揺が先立ったのを覚えている。高橋は伝統的な油彩画のフィールドに身を置き、絵具とイメージのままならなさと絶えずレッスルを繰り広げる。過度な厚塗りによる物質性が注目されることもあるが、近現代のあらゆる絵画的実践を棚卸しし、組み替え、カンヴァスに再定着することで、新たな実践として完成度においても堅牢な水準に到達している。本展では、高橋がより気軽に取り組むドローイングを紹介する。油彩画と同じく実践は多岐にわたるが、モチーフの選択やスピード感において、手の動きを強調する。例えば、自動筆記的に連ねた文字列が意味よりも形態を躍動させるように、鍛えられた手による「かるみ」が、ドローイング作品の持ち味となっている。

 そして手嶋勇気(b.1989)は、2019年の3331アートフェアで、同時期に上野の森美術館で開催されたVOCA展2019で作品を目にしている。手嶋はスイス留学時に現地の画家フェルディナント・ホドラーに感銘を受け、スイスの山岳地帯に溶解する光の移ろいを描いた風景画を制作している。帰国後の作品では、スイスと地元広島の風景が混じり合い、さらにはそこに人や生き物の姿が立ち上がってきたという。しかし風景とは書いたが、手嶋のそれは、およそ静的なものではない。性急に走らせた線と裏側から滲み出させた絵具によるダイナミックな画面は、もはや風景を含めすべてのモチーフが溶け込んだ、複合的で不穏なイメージを形づくっている。制作過程にかかわることだが、作品の裏面にも目配りして欲しい。溶け込んだはずのモチーフがそこに息づいていることを発見するのは、コレクターならではの体験と言えるだろう。


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“EUKARYOTE”は、2018年に東京の神宮前に設立したアートスペースです。美術の発生より紡ぎ続けてきた現代の有形無形、その本質であり、普遍的な価値を持つ作品や作家を積極的に取り上げ、残していきます。


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